日時未定

社長ミクリオ×秘書スレイ

あしぐちはきんとうか中

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「社長、本日の予定です」
「ああ、ありがとう、スレイ」
そう言ってミクリオは書類からしっかり顔を上げて、必ず俺の顔を見て
お礼を言う。
この間、社員たちが話をしているのをたまたま聞いてしまって、知ったけれど、ミクリオは他の社員にはこんなことは絶対にないのだという。
下の人間というのは、必ず上の人間に対して何かしらの不満を持つものだから、きっと愚痴の一つなのだろうと思う。
「君に社長って言われると、気が引き締まるな」
「そんなこと、」
うっかりプライベートの言い方になりかけ、慌てて言い直す。
「恐縮です。それでは、また会議の前にお伺いします」
「ああ」
社員研修で習ったように、綺麗に90度のお辞儀をして、社長室を退室する。
他の扉よりも厚くて重い扉をしっかりと締めて、一息。
ミクリオの叔父が始めたこの会社を、ミクリオが継いで、もう結構な年月が経った。
元々、俺とミクリオは幼なじみで、同じ趣味を持っていたから、自然と進路も同じで、高校どころか幼稚園の前から大学卒業、就職先まで一緒という幼なじみというくくりで括ってしまうには少々物足りない気もするほどの時間を共に過ごしてきた。
先代社長が急病で逝去してから、社内の引き継ぎや他社への挨拶回り、
業界人への挨拶、葬式、とにかく様々なことにミクリオは忙殺されて、俺の一つ前の社長秘書だったライラという人が、ミクリオをより理解して、支えてやれる人間が秘書をやるべきだ、と言って、企画部と研究部を行ったり来たりしていた俺に声をかけたのが始まりだ。
ミクリオは企画部、俺は研究部で入社時は別れたが、ミクリオが忙殺された半年間ほどミクリオの顔を見なかったことはなかった。
思えば、あの半年が自分たちは一番離れていたんだな、と今更ながら思うが、今は、違う意味ですごく離れている、と感じる事が多かった。
社長と秘書は確かに支え、支えられる関係だ。
お互いの信頼関係があってこそ、というのは実際に業務をこなしていて
非常に納得できる。
けれど、俺とミクリオはどうなのだろうか、とたまに考えてしまう。
信頼関係、というには少々いきすぎな気がしてしまうのだ。
これまでは全く考えてこなかった、「普通」という枠組みが、気になってしまってたまらない。


「社長はさ、有能だけど、普通じゃないよな」
「あー、わかる。秘書に使うのがアイツってなあ」
「普通使わないよな」

普通、とは常識と同義だ。
俺を秘書として使うことは、社長としては非常識だ、と豪語していたのは、
名前も知らないどこかの部署の社員だ。
企画部と研究部を行ったり来たりしていた(それはミクリオのやり残したことを俺が引き継いだからだったのだけれど)人間を秘書に使う、など、やはり普通ではないのだろうか。
ミクリオについて他社を訪問しても、会議に出席しても、どの秘書も整然と社長の脇に立ち、いつもすました表情でなんでもそつなくこなす。
一度控室で離したことのある、そうだ、デゼルと言っただろうか。
彼はもうずっと秘書の仕事をして長いのだと言っていた。
俺の以前の配属を話すと大層驚いていたが、やはりそれは普通では無いからなのだろうか。

(俺が何か言わるのはいいけど、)

何よりも会社で働く社員の期待に応えるため、ミクリオは誰よりも頑張っている。
それなのに、俺が秘書をしているばっかりに、ミクリオ自身の能力を疑われるのは心底嫌だ。
嫉妬や僻みと呼ばれるものがあるのは分かる。
収入や地位は、秘書という仕事は存外高いものなのだ。
その地位に、俺はふさわしくないのだ、と言われている。
そして相応しくない人間を隣に立たせているミクリオが、疑われている。
それが嫌で嫌で、時々たまらなくなった。
今すぐにでもこの胸を掻きむしって、息の根を止めてしまいたいとさえ。
「…い」
少しでもミクリオのためになろうと、仕事のチェックは入念にし、一度だって大きな失敗をしたことはない。
一ヶ月でも二ヶ月でも先の予定を、100%でこなすために、根回しに根回しを重ねて、これ以上どうしたらいいというのだ。
これ以上、どうしたら、どうしたら。
「スレイ!」
沈みかけた思考を、ミクリオの声が引き戻す。
「あっ…!」
いつの間にか暗転していた視界が、気が付くとミクリオに支配されている。
「…スレイ、今日の仕事はキャンセルだ」
「えっ、ちょ、」
デスクに広げられた書類をミクリオに早々に取り上げられ、有無を言わさず腕を掴まれる。
「ああ、僕だ。今日は社外に出る。全て明日に回しておいてくれ」
俺が何かを言うよりも先に、携帯で連絡を済ませてしまう。
連絡の先は専務へと就任したライラだろう。
「ミクリオ!だって、今日はっ…エドナとの…!」
「ライラからエドナにはなんとか言ってもらうさ」
高校の頃は俺のほうが大きかったはずが、今となっては俺よりも成長してしまったミクリオが、問答無用とばかりに俺を引きずるようにしてエレベーターに乗り込む。
そのまま地下階のボタンを押すと、直通エレベーターが静かに動き出した。
エレベーターのこのふわっとした感覚が苦手で、思わずミクリオにしがみつくが、しまった、と慌てて距離を取る。
否、取ろうとしてミクリオに引き戻された。
「仕事、たくさんあっただろ…」
「別に急ぎじゃない」
「サボるなんてミクリオらしくない」
「社長だってたまにはサボりたい」
社員だってなんだかんだとサボっているんだから、とミクリオが言い、
ぐ、と言葉に詰まる。
チン、と高い音をして、エレベーターが到着を告げると、ミクリオは睨む俺の視線にひとつ笑って、腕は決して離さないまま、まっすぐに車に向かう。
「俺にも仕事がっ…!」
「君の仕事は僕の傍にいることだ」
そう言って、少々乱暴に車の中に押しこめられ、無情にもドアは閉められる。
すぐに反対側の運転席にミクリオが乗り込んで、俺があれもこれもと、理由を並べ立てるのを聞き流しながら、車を発進させてしまう。
「…どこ行くんだよ」
「家」
間髪いれずにそう答えたミクリオに目を丸くする。
「家に帰ってどうするんだよ…特にやることもないのに」
恨めしげにそう言うと、ミクリオは諦めたのか、と聞くので、もう好きにして、と答えを投げつけた。
ミクリオは少し考えこんで、うん、と頷く。
「そうだな、特にやることもないから、君を抱くことにしようかな」
「はっ!?」
俗物とは縁もゆかりもないと言った外見と表情と声音で、平然と帰ってきた答えに、聞き返した己の声がひっくり返った。
「ははっ、久しぶりに君のそんな声聞いた」
「なっ、ちょ、ふざけるなよ!ミクリオ!」
元々会社と自宅はそう離れてはおらず、5分もすれば到着する。
大きな門を携帯で操作して、開門し、静かに車で入る。
帰り慣れた場所だ。
俺の家じゃないのに。
玄関のすぐ前に駐車して、車を降りると、ミクリオは真っ先に俺の乗った助手席側のドアを開けた。
「は、おいっ…ちょ…!」
そのまま何をするかと思えば、迷うこと無く俺を抱き上げて、行儀悪く足でドアを閉めると、そのまま家に入っていく。
「ミクリオ!」
「冗談じゃないよ、スレイ」
靴も脱がずに廊下を歩き、一番奥の部屋へ。
どさり、とベッドに俺を下ろして、そのまま覆いかぶさってくる。
「スレイが僕のために頑張ってくれてるの、誰よりも僕が一番わかってる」
ちゅ、ちゅ、と髪、額、瞼、目尻、にキスをする。
「みく、んっ、みくりおっ…!」
ミクリオが俺の顔中にキスをするのは、決まって行為をする前だ。
「でも、馬鹿な社員はスレイがどれだけ会社のために貢献してくれているか、どれだけ僕のために力を尽くしているか、知ろうともしない」
「みく、」
りお、そう言おうとして。
「ねえスレイ、いっそ、結婚してしまおうか」

そうしたら、僕も遠慮なく君を守れるよ、




この後滅茶苦茶セッ…スした







なんか方向性見失ってスイマセン…




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